なぜレビューするのか?レビューアー初心者が理解すべき本当の目的

「レビューって何を見ればいいのか分からないんですよね」
「何か言って、間違ってたらどうしようって思うんです」
「LGTMって言っておけば大丈夫って空気になってませんか?」

これは実際に、開発現場でレビューアーを任されたばかりのメンバーから出た言葉です。

レビューアーという立場に立つと、急に「正しいことを言わなきゃ」「何か言わなきゃ」「変な指摘をしてはいけない」といったプレッシャーにさらされます。
でも本来、レビューはそんなに“かしこまった場”ではありません。

このマニュアルでは、レビューアー初心者が「レビューってそもそも何のためにやってるの?」と理解できるよう、コードレビューの本当の目的を“レビューアーの視点”で解きほぐしていきます。

1. 「レビュー=指摘する場」だと思っていませんか?

まず前提として、レビューは「間違いを見つけて指摘する場」ではありません。

もちろん、不具合を防ぐという目的はあります。でも、それは結果論にすぎません。

レビューとは何か?を一言で言えば、

「チームでコードを理解し、共有し、より良いものにするための対話」です。

レビューとは「設計書がないコードの背景を読み取る行為」であり、
「チームにとっての知識・意図・前提を擦り合わせる場」であり、
「これからの変更に耐えるコードかどうかを一緒に考える時間」なのです。

2. レビューアー初心者が感じる“怖さ”の正体

多くの人がレビューアーとして一歩を踏み出せない理由、それは:

コメントが怖い理由
  • 「自分の意見が間違ってたら恥ずかしい」
  • 「何も言わなかったら何も見てないと思われそう」
  • 「怒らせたくない、傷つけたくない」

でも、レビューってそもそも「答え合わせ」ではありません。

レビュイーのコードに対して「こうしたらどう?」と問いかける行為であって、
絶対的に正しい指摘をする必要はないのです。

たとえば次のようなコメントで十分立派です:

Comment
@Reviewer: この条件分岐、意図は理解しました。ただ、他の画面と比べて少し違う書き方になっているので、統一の意図があるか確認させてください。

3. なぜレビューをするのか?5つの本当の目的

3-1. コードの“未来”を守るため

レビューは、今書かれたコードが「明日以降も理解できるかどうか」を確認する行為です。

✔ このコードを3か月後に読む人は、文脈を理解できるだろうか?
✔ 拡張や変更のときに、設計が破綻しないだろうか?

Comment
@Reviewer: 条件が3重にネストされているので、あとから仕様が増えたときに少し崩れやすい構造かもしれません。分岐の意図を整理する方法も検討できそうです。

3-2. チームの認識を揃えるため

実は、設計書よりもPull Requestのほうが“仕様の真実”を語っています。

レビューを通じて「こういう仕様だったのか」「こういう設計方針なんだ」と全員で理解する。
これは情報共有の手段としてのレビューの側面です。

3-3. 技術力の違いを橋渡しするため

レビューは、「経験の差」や「設計のクセ」を可視化する機会でもあります。

  • 初学者:自分の書いたコードが“どう見えるか”を知れる
  • 中堅以上:実装の選択肢を共有できる
Comment
@Reviewer: `map`でなく`forEach`を使っているのは、副作用があるからでしょうか?どちらを使うかの基準、チーム内で揃えておきたいですね。

3-4. バグを未然に防ぐため(結果的に)

設計ミスやロジック不備は、実は「書いた本人」より「他人の目」の方が見つけやすいです。
でもそれは「揚げ足取り」ではなく、「気づきの分担」という立派な役割です。

Comment
@Reviewer: この計算式、`total`の初期化がループ外にないようですが、意図通りでしょうか?

3-5. 設計文化を育てるため

コードレビューを通じて、

  • 「こういう命名が読みやすい」
  • 「こういう責務分けが保守しやすい」
  • 「こういう例外処理はチームで統一したい」

という非言語の設計文化がチームに育ちます。

レビューを続けていると、誰が書いても同じように読めるコードが増えていきます。

4. 初心者レビューアーが最初にやるべき3つのこと

1.「読めるかどうか」から始める

そのコード、読むのに迷いませんか?
読むために変数や関数の意味を想像していませんか?

それだけで、レビューコメントの“第一歩”になります。

2. 「わからなかったこと」をそのまま聞いてみる

Comment
@Reviewer: この関数の役割を読み取るのに少し時間がかかりました。これはデータ変換だけを担っている認識で正しいでしょうか?

“間違ってたらどうしよう”ではなく、“確認することで共有になる”という姿勢でOKです。

3. 「これは良い!」をちゃんと伝える

レビューは指摘だけではありません。
むしろ「こういう書き方いいですね」というコメントこそ、
レビュー文化の根を張らせる言葉になります。

Comment
@Reviewer: `extractDisplayName()`の切り出し、他のユースケースでも使えそうです!命名も明確で読みやすいです。

5. NGレビューコメント例と改善案

- 条件分岐が複雑すぎて読み取れない
+ 条件が4重になっていて意図の把握に時間がかかるので、処理単位で関数に分割すると理解しやすくなりそうです
- 範囲が不明瞭なので見直すこと
+ このパラメータの想定値はどのような範囲でしょうか?空文字やnullが来る可能性も想定されていますか?
- 仕様意図と違う
+ 仕様意図から考えるとユーザー視点を軸にするほうが良いと思います

6. レビューアーの役割は「正解を言うこと」ではない

レビューアーは審判ではなく、ナビゲーターです。

  • コードがどう動くかだけでなく、なぜこう書いたかを聞く人
  • 書いた人が見えなかった観点を照らしてあげる人
  • 書いたコードをより「伝わる形」にするための編集者

レビューコメントは、コードを良くするための会話です。
完璧な指摘じゃなくていい。むしろ「一緒に考える」コメントが、現場にとって一番ありがたいのです。

7. まとめ:レビューアーの最初の一歩は「共感と問い」

レビューとは、

  • 正しさのため
  • 設計の共有のため
  • チームの未来のため
  • そして、書いた人の思考をチームの知識に変えるため

に行うものです。

そして、レビューアー初心者が最初にできることは:

  • 「これはちょっと読みにくい気がする」と感じたら、それを伝える
  • 「この書き方、何か意図がある?」と問いかける
  • 「この処理、きれいですね」と言葉にする

レビューとは、コミュニケーションで品質を育てる営みです。

その最初の一言を恐れないこと。
それが「レビューアー」としてのはじめの一歩です。