はじめに

Reactのコンポーネントレビューで、何気なく見過ごされがちなのがイベント処理の抱え込みすぎです。
クリック、入力、変更通知……。これらのイベントをその場で全部処理しているうちに、気がつけばコンポーネントが“ロジックの塊”になっていた、というパターンは意外と多くあります。

この構造的課題は、コードが肥大化していることよりも、UIとロジックの責任分離が曖昧になっていることにあります。
この記事では、レビューアーが「どこまでを指摘し、どこからを設計判断として任せるか」の基準を整理していきます。

イベント処理が内部に溜まりすぎるとどうなるか

構造的な弊害は主に以下の3つです。

  • 状態管理が分かりづらくなる
    useStateuseEffect の乱立で、何がきっかけで何が変わるのか追いづらくなる

  • UIロジックとアプリロジックが混在する
    入力補正、バリデーション、API呼び出しが全部同じ関数の中にある

  • テストしづらくなる
    イベントの起点と結果が分離できず、関数単体でのテストが困難になる

「内包しすぎ」とは

コンポーネント内部に、複数のイベント処理や状態変更ロジックを直接記述している構造を指します。
典型的には onClickonChange に無名関数を直接書き込むスタイルが挙げられます。

よくあるパターンとレビュー視点

パターン1:ボタンの中で全部処理

処理を内包しすぎた例
export function SubmitButton() {
  const [loading, setLoading] = useState(false);

  return (
    <button
      onClick={async () => {
        setLoading(true);
        const res = await fetch('/api/submit', { method: 'POST' });
        const result = await res.json();
        alert(result.message);
        setLoading(false);
@Reviewer
UIパーツであるボタンの中でAPI呼び出しとアラートを行う構造は、責務が混在しています。
親コンポーネントに処理を委譲するか、専用のロジックファイルに切り出すことを検討してください。
}}
>
送信 </button> ); }

このままでは再利用しにくく、UIの役割が不明瞭になります。

レビューコメントの観点

  • alert など副作用系の処理を直接書いていないか?
  • API呼び出しがUI層に近すぎないか?
  • 状態更新(setLoadingなど)のタイミングが明確か?

パターン2:入力イベントでバリデーションも補正もする

onChangeで複数処理をまとめすぎた例
<Input
  value={email}
  onChange={(e) => {
    const v = e.target.value.trim().toLowerCase();
    if (!v.includes('@')) {
      setError('メール形式が不正です');
    } else {
      setError('');
    }
    setEmail(v);
@Reviewer
入力値の整形・バリデーション・状態変更がすべてonChangeに詰め込まれています。
ロジックを分離することでテストや再利用がしやすくなります。
}}
/>

これは一見便利そうに見えて、あとで編集・拡張がしづらい構造です。
特にエラーメッセージの出力ロジックや、API連携を追加したくなったときに対応が困難になります。

構造的にどう分離するか(再設計パターン)

1. ロジックを useCallback + 外部関数へ移す

useCallbackで処理を固定化
const handleSubmit = useCallback(async () => {
  await doSubmit();
}, []);

<Button onClick={handleSubmit} />

doSubmitの中に副作用処理を分離しておけば、テストも容易ですし再利用も可能です。

2. Custom Hook にイベントを委譲

useSubmit.ts
export function useSubmit() {
  const [loading, setLoading] = useState(false);
  const submit = async () => {
    setLoading(true);
    const res = await fetch('/api/submit');
    setLoading(false);
    return await res.json();
  };
  return { submit, loading };
}
SubmitButton.tsx
const { submit, loading } = useSubmit();

<Button
  disabled={loading}
  onClick={async () => {
    const result = await submit();
    alert(result.message);
  }}
/>

UI層ではイベントの発火と状態表示だけに集中できる構造になります。

内包と分離の構造比較

UML Diagram
UML Diagram

テスト・保守性の観点での利点

  • Hook単位で単体テストが可能になる
  • UI層での変更影響範囲が明確になる
  • 実装者とレビューアーの認識齟齬が減る(責務が明示的になる)

エビデンス・調査データ

  • React Conf 2023: “Separating logic from UI — building sustainable components”
  • State of JS 2024 「useCallback/CustomHookの導入でパフォーマンス改善が得られた割合は74%」
  • GitHub上位プロジェクト(Next.js, Remix)でもUIとイベント処理の分離が共通設計方針として採用されている

まとめ

イベント処理をその場でどんどん書いていくと、UIコンポーネントは肥大化し、構造も見通しも悪くなっていきます
レビューアーとしては、「UIが何を担い、何を他に任せるか」を読み解きながら、責務を絞り込む方向での改善提案ができるとチーム全体の保守性も上がります。

特に再利用性とテストのしやすさを意識し、イベント→ロジック→副作用の流れが分離されているかを重点的に見るようにしましょう。