channel設計レビュー完全ガイド:責務分離・安全性・構造読解力を鍛える

Go言語における channel は、goroutine間の通信と同期を担う中核機構である。
その設計は非常に柔軟な反面、読み手にとっては危険な設計崩壊の温床にもなる。レビューアーには構文的な正当性を超えて、設計意図と責務構造を読解するスキルが強く求められる。

channelとは

Goのchannelは、goroutine間の安全なデータ受け渡しを可能にするプリミティブ。
同期・通知・並列処理設計の中で多用されるが、ライフサイクル管理や責務分離が設計上の要注意ポイントとなる。

本記事では、レビューアー育成の実務指針として、チャネル設計の判断軸を構造的に整理する。


1. channelレビューの本質的問いかけ

レビュー時は以下の思考を常に持つことが基本姿勢となる:

  • 誰がこのchannelを生成したのか?
  • 誰がcloseを管理するのか?
  • 通信は一方向か双方向か?
  • ブロッキングの発生は設計上意図的か?
  • select文は設計意図が読み取れる構造になっているか?

これらは単なる「バグの有無」ではなく、構造的正当性を問う設計レビューの基準となる。


2. channel生成と責務:誰が管理するのか?

func Fetch() <-chan string {
  ch := make(chan string)
  go func() {
    ch <- "data"
  }()
  return ch
}
@Reviewer
`ch`の生成・返却は行っているが、`close()`責務が定義されていません。受け手側がライフサイクル制御できず、設計が不安定になります。生成側がcloseも責任を持つべきです。
  • ライフサイクル不明瞭なchannel返却は非常に危険
  • 生成責任者 = close責任者 を設計原則とする

3. 双方向channelを原則排除せよ

func process(ch chan string) {
  ch <- "request"
  resp := <-ch
  fmt.Println(resp)
}
@Reviewer
`chan string` は送受信両方可能ですが、この関数の責務が不明瞭です。送信専用なら`chan<- string`、受信専用なら`<-chan string`に明示的分離しましょう。
  • 片方向型指定は関数責務を明確化する設計手法
  • 双方向channelの乱用は設計の読解性を著しく低下させる

4. select構造レビュー:意図が読めるか?

select {
case msg := <-ch:
  handle(msg)
default:
  // noop
}
@Reviewer
`default`分岐が空となっています。非ブロッキング意図なのか、抜け漏れ隠蔽なのか読解不能です。想定設計意図をコメントや分岐条件に明示してください。

レビュー時の重点ポイント:

  • 同期通信か非同期スキップか
  • default使用の意図説明
  • time.Afterによるtimeout設計の妥当性確認

5. closeの責任所在レビュー

close(ch)
close(ch) // panic
@Reviewer
複数箇所から`close()`されるリスクがあります。channelの所有者が唯一の`close()`責任者になる構造に整理しましょう。多重closeはpanicを引き起こします。

レビュー基準:

パターン close責任設計
完全内包型 生成関数が完結管理
外部渡し型 context併用で終了管理
送信者責任型 送信終了と同時にclose

6. range使用時の終了条件保証

for msg := range ch {
  fmt.Println(msg)
}
@Reviewer
`range`は`close()`されない限り永久ループ化します。送信側に必ず`close()`責任が存在する構造を保証してください。
  • range使用は終了条件保証済み前提が必要条件
  • close忘れは無限ブロッキング化の原因

7. チャネル典型誤用パターン一覧

誤用パターン 問題点 レビュー焦点
双方向channel 責務不明瞭 片方向指定明示化
select無限待機 CPU無駄消費 停止条件確認
close分散設計 panic誘発 単一責任集中
range終了未設計 永続ループ close保証確認
go+channel乱用 構造破綻 同期整合性

8. レビュー用チェックリストまとめ

チェック観点 確認事項
生成スコープ make()責任の所在
close責任集中 重複呼び出し防止
送受信役割明示 片方向型指定
select設計読解性 分岐意図説明
range終了設計 close保証有無
goroutine整合 通信+並列設計確認

9. 改善例:双方向→片方向通信へ

改善前

func talk(ch chan string) {
  ch <- "ping"
  msg := <-ch
  fmt.Println(msg)
}
@Reviewer
責務混在しています。送受信分離できていません。通信設計が読み取りにくくなります。

改善後

type Message struct {
  Input  chan<- string
  Output <-chan string
}

func talk(msg Message) {
  msg.Input <- "ping"
  reply := <-msg.Output
  fmt.Println(reply)
}
@Reviewer
送信・受信が明示分離され、設計意図が読みやすくなりました。Mockやテスト構成も柔軟化します。

10. 総括:channelレビューは設計の物語を読む訓練

channelレビューの本質は、構文ではなく構造読解にある
レビューアーは以下の設計物語を常に追う必要がある。

  • 誰が通信経路を作り、誰が破棄するのか
  • 片方向性は保証されているか
  • 停止条件は構造的に保証されているか
  • 並行設計と整合しているか

channelは単なるデータ通路ではなく、設計意図そのものがコードに現れる場所です。レビューアーは構造解析者の立場で読解していきましょう。

UML Diagram