GoDocコメントレビュー:設計意図を伝えるコメントとは何か?

Goの公式ドキュメント生成ツール GoDoc は、ソースコード中のコメントをHTMLドキュメントとして公開する仕組みです。
この特性により、コメントは単なる補足ではなく、APIドキュメントとしての責任を持つ重要な設計要素となります。

この記事では、GoDoc形式に準拠したコメント記述をどう評価すべきか、レビューアーの視点から実践的な判断軸を整理します。


正解パターンから設計意図を読み取る

まずはGoDoc形式として模範的なコメント例を確認します。

// Add returns the sum of two integers.
// It does not handle integer overflow.
func Add(a, b int) int {
    return a + b
}
正解ポイント
  • 識別子名(Add)で文が始まっている
  • 副作用がないことが明確
  • 利用者が注意すべき制限(オーバーフロー非対応)も明示

このように、関数の責務、制約、ユースケースを1〜2文で伝えきるのが理想です。


GoDoc形式の設計背景とルール整理

GoDoc形式には明確なルールがあります。記述の見た目以上に、設計の意図を「外部公開インタフェース」として明文化するものという前提理解が必要です。

  • 関数名などの識別子で文を始める
  • 完結した英文(1文以上)であること
  • 対象定義の直前に記述する(関数・型・パッケージ)
GoDocの位置付け

GoDocは「コメント」ではなく「外部インタフェースの一部」として解釈されます。レビュー時にはAPI設計レビューと同じ視点で取り扱う必要があります。


❌ ダメパターンとレビューコメント例

1. 関数の説明と実装が一致していないケース

// CreateUser creates a new user.
@Reviewer
コメントと処理内容が一致していません。`CheckUserExistence`のような命名か、あるいは実装をユーザ作成処理に変更しましょう。
func CreateUser(u *User) error { if exists(u.ID) { return fmt.Errorf("user exists") } return nil }
コメントと実装の不一致

この関数は新規ユーザの登録処理を行っておらず、「存在確認のみ」です。コメントが嘘になってしまっています。


2. 副作用や制限の記述がないケース

// Save writes data to disk.
@Reviewer
ファイル名、保存先、追記か上書きか、失敗時の条件など、利用者が意図を把握できるようにコメントを具体化してください。
func Save(d []byte) error
情報が抽象的すぎる

「書き込む」とだけあっても、どこへ・何を・いつ・どう扱うかの情報が欠落しています。


3. 自明なコメントがノイズになるケース

// Add adds a and b.
@Reviewer
このコメントは除去するか、「どのような文脈で使われるか(例:非負値を前提とするなど)」の補足に切り替えましょう。
func Add(a, b int) int
自明すぎる説明

関数名とまったく同じ文を繰り返しており、コメントの価値がゼロです。


4. パッケージのコメントが曖昧なケース

// Package config provides configuration utilities.
@Reviewer
具体的に何の設定を扱うのか(例:環境変数、起動パラメータなど)を明示してください。
package config
パッケージ責務が曖昧

「ユーティリティ」という言葉は汎用すぎてレビュー時に議論の発端になります。


📋 レビュー観点チェックリスト

観点 評価ポイント
GoDoc形式の準拠 識別子名で始まるか、1文以上で意味が通るか
コメントと実装の一致性 処理内容と整合しているか、乖離していないか
副作用と制限の明示 状態変更、IO、前提条件、ユースケースが記述されているか
情報の粒度と密度 不足していないか、逆に冗長・自明でないか
パッケージ責務の言語化 外部利用者が一読で把握できる1文になっているか

✍️ コメントレビューとは設計レビューである

GoDoc形式のコメントレビューは、「コードと同様に設計の一部」であるという前提で臨む必要があります。
特に以下のような観点を常に意識することで、コメントの価値を最大化できます。

  • コメントは将来の利用者や保守者のナビゲーションになる
  • 設計意図を自然言語で明示することで、コード単体では読み取れない前提が明文化される
  • コメントが嘘にならないように、実装変更に合わせたメンテナンスも責務に含まれる

コメントは書かれた「文章」ではなく、伝えるべき「設計の意志」です。
それを読み解き、正しく補強することこそがレビューアーの役割です。