この記事のポイント

  • STL準拠自作コンテナ設計の必要・不要をレビューで判定する力を養う
  • インターフェース準拠責任、汎用性文化、安全設計整理のレビュー観点を体系化
  • 「作りたいから作る」自作コンテナ設計文化を整理・制御するレビュー技術を解説

そもそもSTL準拠自作コンテナとは

C++標準コンテナライクにSTLの使用文化・契約体系に従って作る自作コンテナを意味します。

STL準拠とは

  • begin(), end() 提供
  • size(), empty() 提供
  • イテレータ提供
  • 標準アルゴリズム利用可能
  • value_type, reference など型定義提供
  • 「STLの世界観に沿うAPI文化」を守るのが準拠
  • 準拠していれば汎用関数・標準ライブラリとの相性が圧倒的に良くなる

なぜこれをレビューするのか

レビューアー視点

STL準拠設計は以下の設計責任整理が必要です。

  • 汎用利用責任整理
    → 利用者コードへの型依存負荷低減

  • 安全設計責任整理
    → イテレータ失効・ライフサイクル整合性保証

  • API契約一貫性責任整理
    → size(), empty(), begin(), end() の一貫提供設計

  • 標準アルゴリズム連携責任
    → find_if等の再利用可否

  • 開発文化形成責任
    → チーム全体の共通設計文化形成

開発者視点

  • vectorやmapの組合せラップを生型APIでそのまま出してしまう
  • コレクション型に直接依存する設計に逃げがち
  • 汎用アルゴリズム適用不可能なAPI構造を残す
  • 自作イテレータ実装を過剰に恐れる
  • STL準拠文化の恩恵を軽視

レビューアーはこれら「文化未形成設計」を育成段階で支援する役割を担います。

良い実装例(準拠設計)

ユースケース:APIレスポンス履歴管理

良い実装例:STL準拠設計
#include <vector>
#include <string>

struct ApiRequestLog {
    std::string requestId;
    int responseCode;
};

class ApiRequestLogHistory {
public:
    using container_type = std::vector<ApiRequestLog>;
    using iterator = container_type::iterator;
    using const_iterator = container_type::const_iterator;
    using size_type = container_type::size_type;

    void add(const ApiRequestLog& log) { logs_.push_back(log); }

    iterator begin() { return logs_.begin(); }
    iterator end() { return logs_.end(); }
    const_iterator begin() const { return logs_.begin(); }
    const_iterator end() const { return logs_.end(); }
    size_type size() const { return logs_.size(); }
    bool empty() const { return logs_.empty(); }

private:
    container_type logs_;
};
  • 標準アルゴリズム適用互換性を確保
  • 利用側がvectorと同様の感覚で使える
  • size() / empty() / begin() / end() 契約統一

レビュー観点

  • STL標準APIに対する互換性が十分維持されているか
  • size()/empty()の意味一致が担保されているか
  • イテレータ利用が安全に適用可能か
  • 標準アルゴリズムの利用障壁が無いか

良くない実装例: ケース1

以下は内部vector公開型で直接内部構造露出してしまう例。

構造露出例
const std::vector<ApiRequestLog>& getLogs() const { return logs_; }
@Reviewer
内部構造が契約露出し将来的な構造変更が不能になります。抽象APIへ昇格させましょう。

問題点

  • vector型依存がAPI契約化
  • 構造変更不可能化
  • 汎用文化形成阻害

改善例

修正例:STL準拠型提供
class ApiRequestLogHistory { /* 前掲例の通り */ };

良くない実装例: ケース2

次はbegin()/end()未提供で範囲for文化を壊す例。

範囲for非対応例
for (const auto& log : history.getLogs()) { ... }
@Reviewer
コンテナ自身がbegin()/end()提供すれば範囲for対応文化が強化されます。

問題点

  • begin()/end()提供責任放棄
  • 呼出側で内部構造意識必須化

改善例

修正例:範囲for対応
iterator begin() { return logs_.begin(); }
iterator end() { return logs_.end(); }

良くない実装例: ケース3

次はsize()/empty()契約未提供で呼出側が都度length確認に苦しむ例。

サイズ契約不在例
if (history.getLogs().size() == 0) { ... }
@Reviewer
size()/empty()提供は設計文化です。API利用者負担を排除しましょう。

問題点

  • 呼出側にコレクション型依存混入
  • 汎用API化困難

改善例

修正例:size()/empty()提供
size_type size() const { return logs_.size(); }
bool empty() const { return logs_.empty(); }

STL準拠提供型設計パターン

パターンA:ラッパ型構造提供

  • 標準コンテナ組合せをそのまま隠蔽

パターンB:複合構造隠蔽提供

  • 複数map+vector組合せでも統合APIはSTL準拠提供維持

パターンC:イテレータ自己定義型

  • 独自ツリー・バッファ等で標準API契約を実装

STL準拠と非準拠設計責任比較

項目 STL準拠設計 非準拠設計
利用側負担
汎用性
保守性
再利用性
テスト容易性
実装初期負荷
  • 短期的な実装負荷を乗り越えて長期的安定性を買う文化

PlantUMLで設計責任整理

UML Diagram

観点チェックリスト

実務レビューFAQ

Q1. STL準拠は本当に必要?
→ 保守・拡張・再利用コストが大幅に軽減される設計文化。

Q2. イテレータ実装は難しい?
→ vector等の組合せなら型転送のみ。ゼロ実装でSTL互換が成立するケースも多い。

Q3. 内部型公開の何が問題?
→ 将来的な構造変更不可能になる。API契約の硬直化は重大設計劣化。

Q4. 準拠で標準アルゴリズムが活きる?
→ find_if、count_if、remove_if等が全自動で適用可能に。

Q5. 準拠文化はレビューで指導可能?
→ 初期文化導入こそレビューの最大貢献領域。

まとめ

STL準拠自作コンテナレビューは文化設計レビューの核心教材である。
レビューアーは

  • API契約抽象化責任
  • 汎用性昇格責任
  • 内部構造非露出責任
  • 標準アルゴリズム適合責任

を読み解き、「設計文化が品質文化を作る」レビュー技術を育成する必要がある。
レビューアーがSTL準拠設計レビューに強くなると開発組織の設計力は指数関数的に伸びる。