この記事のポイント

  • map::emplace活用による挿入コスト削減の設計責任をレビューアー視点で整理
  • 挿入戦略、重複制御、API契約、例外安全まで設計責任を読み解く力を養成
  • insertとの違いを実務的レビューで評価する技術を育成

そもそもmap::emplaceとは

mapの要素挿入時にムーブ/コピー負荷を最小化するためのメソッドです。

map.emplace(key, value);

動作の違い(insertとの比較)

メソッド 概要 余計なコピー/ムーブ
insert 既に生成済みのpairを渡す 事前生成でコピー発生しがち
emplace 要素をその場で直接構築 無駄なコピー・ムーブ抑制
  • mapのemplaceは「その場構築による余計な一時生成回避」
  • 特に複雑なvalue型で差が出る

なぜこれをレビューするのか

レビューアー視点

emplace適用設計は以下の責任整理が必要です。

  • ムーブ・コピー負荷制御責任
    → value型コスト設計と一致しているか

  • 重複判定責任整理
    → キー競合時の挙動をAPI契約で明示しているか

  • 例外安全責任整理
    → value構築途中での例外発生経路整理

  • API契約責任整理
    → 重複許容可否を利用者契約で明文化

  • スケーラビリティ設計整理
    → 大規模投入時の不要構築コスト排除設計

開発者視点

  • insertを無条件使用
  • emplace存在を知らない
  • value型が大きくてもinsertで無駄生成
  • API契約が重複許容か不許可か整理しない
  • try_emplaceとの住み分け放置

レビューアーはこれら「構造依存・文化不足設計」を読み解く役割を担う。

良い実装例

ユースケース:APIログをリクエストIDで管理

良い実装例:emplace活用で効率化
#include <map>
#include <string>

struct ApiRequestLog {
    std::string requestId;
    int responseCode;
};

class RequestLogRepository {
public:
    void registerLog(ApiRequestLog log) {
        logs_.emplace(log.requestId, std::move(log));
    }

private:
    std::map<std::string, ApiRequestLog> logs_;
};
  • ApiRequestLogのコピー・ムーブ回数を抑制
  • insertの事前pair生成不要化
  • 登録失敗時のvalue構築浪費抑制

レビュー観点

  • value型のサイズ・コスト設計と一致した挿入戦略になっているか
  • API契約で重複許容/不許可が明文化されているか
  • 不要ムーブ・コピーが残存していないか
  • try_emplace適用余地を検討しているか

良くない実装例: ケース1

以下はinsertで事前pair生成の無駄が発生している例。

insert無駄生成例
logs_.insert(std::make_pair(log.requestId, log));
@Reviewer
value型が大きいためinsert使用で事前コピーが発生します。emplace適用で一時生成排除を設計してください。

問題点

  • pair生成で無駄コピー誘発
  • valueのムーブコスト上昇

改善例

修正例:emplace適用
logs_.emplace(log.requestId, std::move(log));

良くない実装例: ケース2

次はemplaceすら型安全で使わず二段階でvalue生成してしまった例。

二段階生成例
ApiRequestLog temp(log);
logs_.insert({log.requestId, temp});
@Reviewer
value生成を一段化し、emplaceによりその場構築設計に切替えてください。

問題点

  • value構築が完全に二重負荷化
  • ライフサイクル管理責任混濁

改善例

修正例:その場構築
logs_.emplace(log.requestId, log);

良くない実装例: ケース3

次は重複許容API契約が不明確なままemplace使用している例。

重複責任曖昧例
logs_.emplace(log.requestId, log);
@Reviewer
重複時に例外発生しませんが登録失敗になります。API契約上、重複許容可否を明文化してください。

問題点

  • emplaceは重複時何もしない(例外発生しない)
  • 呼出側が重複判定責任整理不能

改善例

修正例:契約責任整理
bool success = logs_.emplace(log.requestId, log).second;
if (!success) { handleConflict(); }

API契約整理パターン

パターンA:登録失敗通知型

bool registerLog(ApiRequestLog log);
  • 呼出側が重複確認責任保持
  • 成否を返却契約

パターンB:重複上書き許容型(明示設計)

void registerOrReplace(ApiRequestLog log);
  • insert_or_assign利用可能
  • 上書き許容契約明文化

パターンC:重複完全拒否型

void registerLog(ApiRequestLog log); // 登録失敗時例外
  • API内で強制検査+例外通知

emplace / insert / try_emplace 比較整理

メソッド 動作 ムーブ発生 重複時
insert pair前構築必要 あり 何もしない
emplace その場構築 なし 何もしない
try_emplace keyのみ事前評価 value構築完全遅延 何もしない
  • try_emplaceは特にvalue構築高負荷時に有効

PlantUMLで設計責任整理

UML Diagram

観点チェックリスト

実務レビューFAQ

Q1. insertとemplaceは何が違う?
→ insertは事前pair生成必要。emplaceはその場構築でムーブ抑制。

Q2. emplaceは常に優先?
→ value型がコスト高なら原則emplace優位。

Q3. try_emplaceの導入タイミング?
→ 重複発生頻度高い場合はtry_emplaceが最もリソース効率的。

Q4. emplace重複時はどうなる?
→ 例外発生せず、登録失敗(戻り値secondがfalse)。

Q5. API契約で重複可否は要明文化?
→ 非常に重要。レビュー時は必ず明文化を確認。

まとめ

map::emplaceレビューはムーブ抑制文化と契約整理文化の訓練教材である。
レビューアーは

  • 事前pair生成排除責任
  • ムーブ最小化設計責任
  • 重複契約整理責任
  • API契約昇格設計責任

を読み解き、「性能最適化はAPI契約責任整理の副産物」として捉えるレビュー技術を育成する必要がある。
レビューアーがemplace責任を読み解けると設計品質は一段上がる。