この記事のポイント

  • ムーブセマンティクス活用による不要コピー抑止設計をレビューアーが読み解く技術を整理
  • 所有権移譲の自然設計とパフォーマンス最適化をレビュー観点として整理
  • copy禁止設計とムーブ活用の責務整理判断力を養う

そもそもムーブセマンティクスとは

C++11以降のムーブセマンティクスは
「所有権移譲によってデータ複製コストを抑制する転送機構」
です。通常のコピーよりもはるかに軽量です。

std::vector<int> a = createVector(); // ムーブ可能
ムーブ適用が重要になる典型状況
  • 巨大データ構造の転送
  • 戻り値最適化(RVO)経路統合
  • 関数受領所有権移譲契約
  • std::move明示適用

レビューアーは
「この経路はコピーになっていないか?」
を読み解き、ムーブ優先構造へ整理します。

なぜこれをレビューするのか

ムーブ設計を見落とすと以下が起こります。

  • 不要なデータコピー多発
  • ヒープ再確保・再初期化コスト増大
  • 所有権移譲経路の曖昧化
  • コピーコンストラクタ暴発

レビュー段階で
ムーブセマンティクス設計思想が貫通しているか
を静的に評価することが重要です。

レビューアー視点

  • 関数戻り値でRVO・ムーブ経路が優先されているか
  • 関数引数設計でムーブ受領が検討されているか
  • std::move適用忘れがないか
  • コピー禁止設計が責務分離に導入されているか
  • std::vector等の内部メモリ確保頻度が抑制されているか

開発者視点

  • 戻り値転送は極力ムーブ前提で設計
  • 関数受領契約にunique_ptr/std::string&&活用
  • std::moveの挿入位置意識
  • コピー禁止(=delete)宣言検討
  • swap設計による最適転送

良い実装例

想定:巨大ログ構造の所有権移譲設計

良い設計例
#include <string>
#include <vector>
#include <utility>

struct ApiRequestLog {
    std::string endpoint;
    std::vector<int> data;

    ApiRequestLog(std::string ep, std::vector<int> d)
        : endpoint(std::move(ep)), data(std::move(d)) {}
};

ApiRequestLog createLog() {
    std::string ep = "/api";
    std::vector<int> payload = {1, 2, 3, 4, 5};
    return ApiRequestLog(std::move(ep), std::move(payload));
}

void process() {
    ApiRequestLog log = createLog(); // RVO適用経路
}

良いポイント

  • 関数戻り値はRVO+ムーブ前提
  • コンストラクタで所有権移譲契約が明示的
  • std::move活用でコピー抑止設計

レビュー観点

  • ムーブ可能型がmove適用で転送されているか
  • 関数受領型がmove受領契約に整理されているか
  • コピー禁止設計が必要箇所に導入されているか
  • 戻り値転送がRVO優先設計になっているか
  • ムーブ忘れによる予期せぬコピーが混入していないか

良くない実装例: ケース1(コピー暴発)

問題例①
ApiRequestLog createLog() {
    std::string ep = "/api";
    std::vector<int> payload = {1, 2, 3, 4, 5};
    return ApiRequestLog(ep, payload);  // コピー発生
}
@Reviewer
所有権移譲経路でコピーが発生しています。std::moveを適用し、転送契約に整理してください。

改善例

改善例①
return ApiRequestLog(std::move(ep), std::move(payload));

良くない実装例: ケース2(受領契約不統一)

問題例②
void save(ApiRequestLog log) {
    logs_.push_back(log);  // コピー経路
}
@Reviewer
関数受領型がコピー契約です。ムーブ受領(ApiRequestLog&&)またはunique_ptr統一を検討してください。

改善例

改善例②
void save(ApiRequestLog&& log) {
    logs_.push_back(std::move(log));
}

良くない実装例: ケース3(コピー禁止欠落)

問題例③
struct Session {
    std::string token;
};
@Reviewer
ムーブ設計のみ許可したい型ではコピー禁止(=delete)を検討してください。

改善例

改善例③
struct Session {
    std::string token;
    Session(const Session&) = delete;
    Session& operator=(const Session&) = delete;
};

観点チェックリスト


まとめ

ムーブレビューは
「所有権移譲経路を静的に追い、コピー発生を予防する構造確認レビュー」です。

レビューアーは常に

  • コピー発生箇所をムーブ適用で消去可能か?
  • 契約整理でムーブ設計が強制されているか?
  • 転送コストが意図通り最小化されているか?

を読み取り、不要コピー抑止設計へ誘導する役割を担います。

UML Diagram