この記事のポイント

  • allocator設計理由をレビューアーが読み解く技術を整理
  • 標準vector等のカスタムallocator活用判断をレビューできる
  • パフォーマンス・責務分離・設計意図読み取りの視点を学習

そもそもallocatorとは

C++標準ライブラリはコンテナに Allocator パラメータを持ちます。
これはメモリ確保の戦略を外部注入できる仕組みです。

std::vector<int, CustomAllocator<int>> data;
allocator導入の設計意図
  • メモリ確保先の切替(例:専用メモリプール)
  • 頻繁確保/解放パターン最適化
  • 並列処理・スレッドローカルアロケーション制御
  • 特殊用途(共有メモリ、固定領域、RTOS用など)

allocator導入は通常のnew/delete設計よりも
さらに高度な責務分離・管理集約を伴う設計決断になります。

レビューアーは
「なぜ標準確保ではなくallocatorが必要なのか?」
を常に読み取る必要があります。

なぜこれをレビューするのか

allocator導入は設計全体の寿命責任・確保戦略・保守難易度に直結します。

  • パフォーマンス最適化だけで導入すると逆に複雑化
  • 責務分離が曖昧なallocator設計は保守不能化

レビュー段階でallocator適用理由が整理されているか判定することで
設計の妥当性を静的に評価できます。

レビューアー視点

  • allocator導入目的が明確か(性能・スレッド分離・リアルタイム)
  • new/delete露出では吸収不能だった要件が存在するか
  • 通常vectorで不都合な確保問題が発生しているか
  • allocatorが適切にRAII設計統合されているか
  • API契約にallocator依存を持ち込んでいないか

開発者視点

  • 性能最適化の必要条件を整理する
  • allocator導入で責務分離を意識する
  • スコープ集中管理に寄せたallocator設計を行う
  • 他責務(ライフサイクル・例外安全)は標準RAIIで吸収する

良い実装例

想定:高頻度ログ出力のメモリプール戦略

良い設計例
#include <memory>
#include <vector>
#include <string>
#include <iostream>

// 簡易カスタムアロケータ
template<typename T>
class FixedPoolAllocator {
public:
    using value_type = T;

    FixedPoolAllocator() noexcept {}

    template<typename U>
    FixedPoolAllocator(const FixedPoolAllocator<U>&) noexcept {}

    T* allocate(std::size_t n) {
        std::cout << "Custom allocation of " << n << " elements" << std::endl;
        return static_cast<T*>(::operator new(n * sizeof(T)));
    }

    void deallocate(T* p, std::size_t) noexcept {
        ::operator delete(p);
    }
};

struct ApiRequestLog {
    int requestId;
    std::string endpoint;
    std::string clientIp;
    int responseCode;
    time_t requestedAt;
};

using LogVector = std::vector<ApiRequestLog, FixedPoolAllocator<ApiRequestLog>>;

void process() {
    LogVector logs;
    logs.reserve(1000);
    logs.push_back({1, "/api/items", "127.0.0.1", 200, std::time(nullptr)});
}

良いポイント

  • allocator導入理由が「高頻度確保の管理吸収」で明確
  • API契約にallocator依存を持ち込んでいない
  • スコープRAII保証はvectorが担保

レビュー観点

  • allocator導入理由が具体的に設計上明示されているか
  • 通常allocatorでは解決困難な制約要件があるか
  • 確保集中/解放責任がスコープに埋め込まれているか
  • API契約にallocator型が露出していないか
  • RAII責務とallocator責務が分離統治されているか
  • allocatorコード自体が安全に設計されているか

良くない実装例: ケース1(目的曖昧なカスタムアロケータ導入)

問題例①
using LogVector = std::vector<ApiRequestLog, FixedPoolAllocator<ApiRequestLog>>;
@Reviewer
allocator導入理由が設計から読み取れません。性能要件・確保頻度抑制・特殊用途等が存在する設計目的を明文化してください。

問題点

  • allocator導入が目的化している
  • 拡張性低下(将来保守困難)

改善例

改善例①
// 設計理由: 毎秒1000件超の高頻度確保負荷を軽減する専用プール実装

良くない実装例: ケース2(API契約にallocator依存)

問題例②
void save(std::vector<ApiRequestLog, FixedPoolAllocator<ApiRequestLog>>& logs);
@Reviewer
API契約内にallocator依存を持ち込まないでください。内部実装戦略と契約責務を分離し、vectorは呼び出し側には標準型で提示してください。

改善例

改善例②
void save(const std::vector<ApiRequestLog>& logs);

内部実装でのallocator採用は非公開に留める。


良くない実装例: ケース3(allocator責務の肥大化)

問題例③
template<typename T>
class ComplexAllocator {
    // 複雑化しすぎた依存設計
    T* allocate(std::size_t n) {
        // 外部リソース依存
    }
    void deallocate(T* p, std::size_t n) {
        // 外部監視依存
    }
};
@Reviewer
allocator設計は責務範囲を確保・解放責任に限定してください。外部監視・外部リソース統合は別責務クラスへ分離しましょう。

改善例

改善例③
allocator責務は純粋に確保・解放だけに限定

観点チェックリスト


まとめ

allocatorレビューは
「メモリ確保戦略とAPI契約を分離管理できているか」
を静的に読み解く設計レビューです。

レビューアーは常に

  • allocator導入理由は妥当か?
  • 標準vectorで不可能だったか?
  • 責務肥大化していないか?

を読み取り、責務集中+契約簡素化設計に誘導するのが重要です。

UML Diagram