はじめに

※内容にはフィクションを含みます

リーダーの立場で言います。 最悪なんです、一次情報を「見ました」で潰されるのは。しかも相手は進行役。場を回すはずの人が、開発者の口を塞いでどうするんだと、喉まで出かかるんですが、怒鳴ったら終わりです。だから飲み込みます。飲み込んだうえで、流れを戻す。それが仕事です。

その日、会議で起きたこと

開発者「Serenaが良いのではないか、と考えています。手元のPoCで、うちのコードベースだとタスク分割と失敗時のリカバリが一番噛みました。ログと再現手順はここに」 進行役「Serenaは違います。でもトークン削減という意味ではそうです。“普通は”X社のYを選ぶみたいですよ」

この言い方がキツい。 「違います」で一次情報を切り捨て、すかさず「でも〜という意味ではそう」と二次情報の解説者に座る。上からの“認定”に見えるので、開発者は次の一歩を踏み出しづらくなる。場の温度が一段下がるのがわかる。

しかもこの進行者、「レトロスペクティブでは個人に対する攻撃はしないようお願いします」と冒頭に必ず言う。この進行者はまず、個人攻撃の筆頭者が自分だと言うことに気がつくべきです。

リーダーとして、まずやったこと

怒らない。論破しない。速度を落とすだけです。私はメモを置いて、ゆっくり言いました。

「一次情報を先に置きます。Serenaの検証ログを中央に戻しましょう。 二次情報(トークン削減の一般論)は後段で照合します」

“違います”に対して“否定の否定”を返すと、たちまち勝ち負けの土俵です。順番の提案に言い換えると、相手は席を譲りやすい。開発者は落ち着いて三つのPoC(効果・手数・撤退条件)を読み上げ、地図(事実)がテーブルに戻る。ここまでで半分、空気は戻ります。

「トークン削減」カードへの対処

「トークン削減」は便利な合言葉です。言った瞬間に“詳しそう”に見える。でも、その効き目は前提に強く依存します。私はこう返します。

「“削減”の主語を合わせたいです。 コンテキスト長の圧縮なのか、プロンプトの定形化なのか、やり直し回数の削減なのか。 我々のSLO(99.9%)と費用枠投影すると、どれが一番色が濃いですか?」

“詳しさ”を座標に落とす。主語・指標・制約に分解すれば、一般論は照合器に降りる。ここまで降りてくれば、進行役も対話に戻ってこられる。

開発者は被害者、でも被害者のままでは救えない

守るのはリーダーの仕事です。 私は開発者に「ありがとう」と言いました。測って持ってきた人が、次も測る人になる。私はその場で撤退条件を読み上げました。

「Serenaはこの条件で赤なら撤退。手戻りコストはこの範囲。だから試す権利はある」

撤退が見えている決定は、場を落ち着かせます。進行役も安心する。安心すれば、遮らない。単純ですが効きます。

仕組みで再発を止める(二つで足りる)

  • 冒頭10分は評価語封印 「良い/悪い/違う/普通」を禁止。問うのは期間・母数・前提だけ。一次情報が自動で前に座る。

  • 決定ログに根拠ラベル 行ごとに[観測][仮説][検証][一般論][意思決定]を付与。翌週、[一般論]だけで決めた行を読み上げる。静かに赤面する。赤面は最強の学習装置です。

それでも食い下がられたら、これだけ言う

ポケットに二つ、覚えやすいセリフ。

地図を先に描きます。目的地はそのあとでいい」 「その“普通”、うちのSLOに置くと何色ですか」

速度が落ちれば、言葉は届く。届けば、一次情報は生き残る。

まとめ

リーダーの役目は、賢さを見せつけることじゃない。因果の交通整理です。 Serenaを推すかどうかは最後に決めればいい。最初に決めるのは順番だけ。一次情報を先に、二次情報は照合に回す。これを守るだけで、負けず嫌いの速球はキャッチボールに変わる。

次のレトロ、冒頭の一言はこれで始めましょう。 「いま見えている事実から、地図を描きます」 最悪な空気は、それだけで八割、別の空気に変わります。