2025年JavaScriptのフロントエンド開発ツール選別
2025年JavaScriptのフロントエンド開発ツール選別
はじめに
「フロントエンドはReact一択」と言われた時代は終わりました。
Vueの普及によって選択肢は広がり、現在ではSolidJS、Qwik、Svelte、Angular、Lit、Astroといった、明確な設計思想を持つライブラリ/フレームワークが次々と現れています。
それぞれに利点があり、性能差や機能差で語られることも多いのですが、この記事ではそこではなく、「レビューアーがどう読み解けるか」という視点で整理します。
構文、状態、リアクティブ性、拡張性──そのすべてを、レビュー対象としてどう見るべきか。
そして、選定段階で「これならレビュー可能」と判断するには何を見ればいいのか。
UI構造を支えるフレームワークの本質をレビュー観点から掘り下げていきます。
フレームワークの印象と設計思想のざっくり整理
まずは各技術について、その設計方針を一言で把握できるように簡潔に紹介しておきます。詳細は後述します。
React
JavaScriptによるUI記述を中心に据えたフレームワーク。Hooksにより状態や副作用の制御が可能。設計の自由度は高いが、構造設計力が強く問われる。
Vue
テンプレート記法が主軸。リアクティブシステムが強力で、Composition APIにより柔軟な設計も可能。初学者にやさしいが、依存トラッキングの暗黙性には注意。
SolidJS
仮想DOMを使わず、リアクティブシグナルで更新対象を明示。再描画を最小限に抑える設計思想。構造がシンプルな分、コードの見通しも良い。
Preact
Reactの構文互換を維持しながら、バンドルサイズとパフォーマンスを極限まで削減。Reactの軽量版として明快なポジションを持つ。
Qwik
初期ロード時にJavaScriptを実行せず、HTMLだけを出力。必要な場面でだけJSを復元(Resumable)。新しい思想だが、構造理解が不可欠。
Svelte
テンプレートと状態宣言をもとに、ビルド時にDOM操作命令へ変換。仮想DOMを使わない自然な構文と、リアクティブ性の簡潔さが魅力。
Angular
TypeScript+HTMLテンプレートで構成されるフルスタック型。DIやサービス、モジュール構成など、エンタープライズ向けの強い構造統制が特徴。
Lit
Web Components準拠。テンプレートはJavaScriptのタグ付きテンプレートリテラルで記述され、HTMLに極めて近い形で記述できる。
Astro
HTML中心の静的サイト指向。必要最小限のJavaScriptのみを島(Island)として適用し、ドキュメントや多言語構成に強い。
各フレームワークをレビュー観点で比較する
UI構造を支えるこれらの技術は、レビューアーにとって「読めること」「追えること」が何より重要です。
以下に、主な4観点(DOM構造・状態・リアクティブ性・拡張性)での比較をまとめます。
1. DOM構造の明確さ(テンプレートと実DOMの一致性)
技術 | 特徴 |
---|---|
React | JSX構文と実DOMが比較的一致。仮想DOMの構造も推測しやすい。 |
Vue | テンプレート中心。構造は読みやすいが、条件分岐が多いと追跡が難しくなる。 |
SolidJS | JSXそのままで実DOMに直結。仮想DOMがない分構造がそのまま実行単位になる。 |
Preact | Reactと同様の構造。差異は少なく、構文も単純。 |
Qwik | 遅延実行構造のため、最初にどのDOMがいつ動くかを追うには理解が必要。 |
Svelte | HTML構造は明快だが、ビルド時に変換されることで実DOMとのズレが生じうる。 |
Angular | テンプレートが静的に構成されており、HTML構造は明示的。ただし文法量は多い。 |
Lit | html\ …`` で記述されるテンプレートがDOMと一致。標準仕様に近い。 |
Astro | 実HTMLそのものがコードに現れるため、可読性は非常に高い。 |
2. 状態管理とその構造化
技術 | 特徴 |
---|---|
React | useState , useReducer , useContext 等を明示的に定義。抽象化次第で追跡しやすくも煩雑にもなる。 |
Vue | ref , reactive で状態定義可能だが、どこで何が依存しているかの可視性は低い。 |
SolidJS | createSignal で状態を明示。依存のスコープが視覚的に分かるため追いやすい。 |
Preact | Reactと同様。構造は単純で、互換性の中で設計がしやすい。 |
Qwik | 状態をuseSignal$ などで定義し、復元タイミングと状態スコープを別途設計する必要がある。 |
Svelte | $: による依存トラッキングが直感的だが、状態の増加でコード全体の読みやすさは低下する。 |
Angular | 状態はService単位で分離され、注入元を追うことで責務が明確になる。 |
Lit | DOM属性との連動が基本。状態の追跡には慣れが必要だが構造は素直。 |
Astro | 状態を持たず、各Islandごとに閉じて構成される。全体状態のレビューは発生しない。 |
3. リアクティブ性と副作用の扱い
技術 | 特徴 |
---|---|
React | useEffect と依存配列により副作用の明示が可能。見落としの危険は常にある。 |
Vue | watch , watchEffect により副作用定義が可能だが、依存の暗黙化には注意が必要。 |
SolidJS | createEffect で副作用を定義。依存関係が自動で追跡され、構造上も見やすい。 |
Preact | Reactと同等の記述スタイル。軽量だが副作用設計は変わらない。 |
Qwik | useTask$ で副作用を定義するが、初期評価の順序と復元条件を追うには知識が要る。 |
Svelte | $: に副作用を含めることが多く、記述が簡潔な反面、追跡が難しくなることも。 |
Angular | ライフサイクルフック+RxJSを使った明示的な副作用管理。高度だが統制されている。 |
Lit | DOM更新タイミングに応じた副作用設計が可能だが、状態設計と合わせる必要がある。 |
Astro | 副作用は基本的に存在せず、JavaScript実行はクライアントIslandに限定される。 |
4. 拡張性とスケーラビリティ(大規模構成への適合性)
技術 | 特徴 |
---|---|
React | 拡張性は高いが、明示的な構造ルールがないため設計の一貫性はチーム次第。 |
Vue | Composition APIにより再利用・分離が可能。Options APIと混在させると破綻しやすい。 |
SolidJS | signal/store単位で構造を分離しやすく、抽象化も行いやすいが大規模事例は少ない。 |
Preact | Reactの構造を保ったまま小規模〜中規模に適するが、エンタープライズ拡張はやや厳しい。 |
Qwik | 初期表示を極限まで軽く保てる設計だが、構成の分離と復元ポイント設計に負担がかかる。 |
Svelte | 状態とロジックが混在しやすいため、規模が大きくなると責務分離の工夫が必須。 |
Angular | モジュール単位で構造を整理でき、チーム体制に合わせた明示的なスケーリングが可能。 |
Lit | Web Componentとして明確にカプセル化されるため、部品単位の拡張は堅牢。全体構成は工夫が必要。 |
Astro | ページ数や言語数が多くても構成が破綻しづらい。UIのインタラクションが少ない場合に強み。 |
プロジェクト規模・学習難易度・構造化しやすさの三軸で評価する
レビューアー視点で選定を補助するには、以下の3軸の掛け合わせで判断するのが実用的です。
- 学習難易度:新人含むチーム全体が扱えるか
- 構造の複雑化リスク:拡張に耐えうるか、責務分離が自然に行えるか
- スケーラビリティ:小さく始めて大きく育てられるか
小〜中規模に向く技術(簡潔・習得容易・構造が自然に分かれる)
技術 | 難易度 | 複雑化リスク |
---|---|---|
Preact | 低 | 低 |
Svelte | 低〜中 | 中 |
Vue(Options) | 低 | 中 |
Lit | 中 | 低〜中 |
中〜大規模を狙える技術(柔軟で拡張性が高いが設計力必須)
技術 | 難易度 | 複雑化リスク |
---|---|---|
React | 中〜高 | 中 |
Vue(Composition) | 中 | 中 |
SolidJS | 中 | 低〜中 |
Qwik | 高 | 高 |
エンタープライズ規模に適する技術(多人数・多層チームで統制を保てる)
技術 | 難易度 | 複雑化リスク |
---|---|---|
Angular | 高 | 低 |
Astro | 中 | 低 |
レビューの観点で言えば、構造が明示されるか・再利用可能な責務単位で記述されているか・状態と副作用が過不足なく定義されているかが最重要です。
フレームワーク選定レビューの観点とは何か
実務の技術選定では、速度・流行・開発者の好みといった指標が並びがちですが、レビューアーが読み解けない技術は採用すべきではないというのが、構造管理の基本原則です。
選定レビューでは、以下のような観点を意識すると良いでしょう:
- 状態とロジックの責務が明確に分かれているか
- 拡張によってコード全体が煩雑になりにくいか
- チームメンバーの技術分布に対して学習負荷が現実的か
- 構造の中に暗黙的な依存や副作用が入り込まないか
- コードレビュー時に構造的な可視性が保てるか
たとえばSolidJSはコード構造が素直で追いやすく、初期表示や描画の性能も申し分ありませんが、メジャーな導入事例が少ないためチームとしての慣れが必要です。
Qwikはアーキテクチャ上の面白さが光る一方で、復元ポイント設計にチーム全体の理解を要するため、安定運用には準備が不可欠です。
一方でAngularのように全体構造が最初から提示されている技術は、レビューのしやすさという意味では大きな優位を持ちます。
まとめ
UIフレームワークの選定は、機能や速度だけで決まるものではありません。
レビューアーにとって最も重要なのは、「その技術を構造として読み解けるか」という点です。
コードレビューは単なる品質確認ではなく、設計思想を追体験し、適切な拡張や保守ができる構造を維持するためのプロセスです。
だからこそ、技術選定の段階で「レビューできる構造になっているか」「将来のレビューにも耐えうるか」を見極めることが、レビューアーの重要な責務と言えるでしょう。
フレームワークは道具ではなく、設計の土台です。
レビューアーがその土台を正しく理解し、選定段階から関与することは、チーム全体の品質と拡張性を守るうえで不可欠です。